森の小川で、山の渓流で、そして田んぼのあぜ道で、ホタルが瞬く季節になりました。ホタルは清流のシンボルとして古くから日本人に親しまれてきた昆虫です。約1年かけて水と土の中で育ち、成虫になって美しい光を放つのはわずか10日程度。その儚さや清らかさが、日本人の心を捉えて離さないのかもしれませんね。
梅雨の始まりから光り始めるホタル。日本全国に分布し、昔から人々の心を魅了し続けています。環境の変化などで減っていますが、その光は健在で今ではホタル鑑賞ツアーなどが全国で人気です。実はホタルと言われている虫は多く、光らないホタルもいれば光るホタルもいますが、一般にはゲンジボタルとヘイケボタルが有名です。
ゲンジボタル(左)と一回り小さなヘイケボタル(右)。赤い部分の黒いラインで見分けます。
ホタルは成虫になると水しか飲まず、エサは食べません。幼虫のころ、ゲンジボタルはカワニナという川の巻貝を食べ、ヘイケボタルは田んぼなどにいるモノアラガイなどいろいろな巻貝を食べます。
水を舐めるゲンジボタル。
水を舐めるヘイケボタル。
カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫。
モノアラガイを食べるヘイケボタルの幼虫。
初夏、幻想的な輝きで人々を癒すホタルの光は、飛び回るオスの光と自分の位置を知らせるメスの光です。メスは葉の上などでオスの光を吟味し、気に入った光だとオスに向け「あなた気に入ったわ!」と光で合図。するとオスは真上からストーンと落ちるようにメスの光をめがけてそばに行き、交尾を促します。見事成功すると、結婚成立ということ。あの光はそんな役目で光っているんです。人を癒すためではなかったんですね。
田んぼで神秘的に光る黄色い光。
光を放つオスのゲンジボタル。
交尾をすませたメスは、水の流れる小川の淵に自生する苔などに産卵します。卵はものすごく小さく、0.5mmほど。ゲンジボタルは1匹のメスが800~1,000粒以上の卵を産み、10日ほどで孵化して小さな小さな幼虫が生まれます。幼虫は川に生息する生きた貝を食べて育ち、約10カ月を水中で生活します。翌年の春、雨上がりに陸に上がり、土の中に潜ってサナギになり、2週間ほどで成虫になって地上に出てきます。成虫の寿命はあまり長くなく、平均すると7日から10日前後。卵の数は多くても成虫になれるのはごくわずか。それだけ敵が多いというわけなんですね。
丸いつぶつぶが、直径0.5mmの小さなゲンジボタルの卵。
ヘイケボタルの幼虫。
ホタルを捕まえてひっくり返すと、お尻にオスは2層、メスは1層の発光器がついているのが分かります。そこでルシフェリンという発光物質とルシフェラーゼという発光酸素、さらに体内酵素が混ざって化学反応で光るんです。この原理を利用したものが、お祭りなどで売っている手首などに付ける光るリング。2液が混ざって光る仕組みになっています。
ゲンジボタルの発光器。左のメスは白い部分が1つ。右のオスは光る部分が2つ。
飛び立つ直前のゲンジボタル。
日本全国でホタルの里やホタルの会などが展開されるほど、ホタルは人気のある虫です。しかし環境の悪化で激減し、みんなが増やそうと必死で活動しています。ホタルの生息には、まず餌となる貝が無数に生息すること。また、サナギは土の中にもぐるので、幼虫が水から上がるとすぐに土があること。そして一番大事なのは、そもそも卵を産む場所がちゃんとあること。「昔はたくさんいたのにね~」と、どんな生き物でも聞く声ですが、ホタルの生きることができる環境を人間がちゃんと守ることが大切なんです。